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■マッチ王・瀧川辨三


 瀧川辨三は嘉永4年(1851)11月21日、長府藩士瀧川清の二男として、長門豊浦郡長府村に生まれた。 幼名を百十郎、通称は武熊と言う。明治4年(1871)京都に出て英学を修めた。

マッチ事業
 キニフル商会(神戸居留地のイギリス商館)に勤めていた辨三は、 明治13年(1880)6月共同出資者とともに清燧社(SEISUISHA)を設立しマッチ製造に着手した。 工場は一般に兵庫新場(流れ者の寄合場みたいな汚いところ)と呼ばれていた神戸市湊町4丁目に設けた。

 同年7月辨三は、長府藩士井上屯三の二女・吉(きち子)と結婚した。 この年は、同業者が粗製乱造した不良マッチで市場の信用が落ちて、立ち行かなくなる工場が続出した。 清燧社もこのあおりを受けて虫の息、共同出資者が手を引く中、辨三はこの事業を一手に引き受けた。 粗衣粗食で日の出から日没まで働く辨三、これを助け新婚の妻・吉も赤ん坊を行李に入れて 子守をしながら一所懸命働いたと言うことである。 後年辨三は「工場はかれら(職工)の住宅よりきれいなところで、金銭を得る集会所だとの観念を抱かせるのが方針だ」と言っている。 職工の衛生、福利厚生に大変気配りしたのであった。

 工場は品質第一(ユーザーの立場に立った)で運営し市場をよく見て、国内市場、海外市場と塩梅よく開発し、 よく苦境に耐えてこれを切りぬけた。 明治30年(1897)には良燧社を傘下に収めた。 良燧社は明治19年(1886)兵庫県東出町に設立されたマッチ工場であるが、創業社長の泉田文四郎が明治29年(1896)他界した。 この良燧社は輸出先・中国市場で絶大な人気商標「尾長猿印」をもっていた。 辨三は商標がマッチの品質信用を保証する記号であることを良く理解していたので、この商標と良燧社を高値で買い取ったのである。 その後良燧社は「馬首印」を喜多信松から、「ツバメ印」「筍印」「エビ印」を百崎俊雄から受け継いだ。 いづれも当時から国内向けの人気商標で、平成の現在も販売されている。

 大正5年(1916)に清燧社と良燧社を合併して瀧川燐寸株式会社とした。 同社は同年鈴木商店が設立した帝国燐寸株式会社と大正6年(1917)に合併し東洋燐寸株式会社を設立した。 こうして辨三はマッチ業界に確固たる地盤を築き、マッチ王となったのである。 辨三は大正7年(1918)東洋燐寸株式会社の社長を引退し、マッチ事業一切を有能な婿養子・瀧川儀作に譲った。

公益事業
 地場産業育成と地域社会への貢献は辨三の一貫したポリシーであった。 また各地の天災地変時には常に寄付をしている。

 大正7年(1918)には瀧川中学校を設立した。 これは前年経営不振で廃校に追いやられた学校の在校生を引き受けたものである。 いまも建学の精神「至誠一貫」「質実剛健」「雄大寛厚」を校訓とし、滝川中・高等学校として受け継がれている。

 その他関係した事業は、神戸瓦斯、兵庫倉庫、神戸電気軌道等々に獅子奮迅の働きをした。 この間、神戸商業会議所会頭、貴族院議員を歴任している。 また山口の生家、神戸の自宅、別荘の跡地は全て公園になっていることも付言しておく。

辨三の処世
 数々の公益活動もお金持ちだから出来たことではない。 一生涯一貫して質素倹約の人であった。 工場創業時は勿論木綿の作業衣はツギだらけ、職工の誰よりも早く工場に入り、終業も翌日の段取りをして一番遅く引きあげた。 明治30年代になってもまだツギの当たった洋服を着ていたという次第で、まだ使えるものは全て使い尽くすという合理精神である。 自宅の玄関には馬と鹿の首が飾ってあった。 天から見れば人間は多かれ少なかれ馬鹿、小賢しい才覚よりも誠実さが大切だとして、誠一筋の一生を実践したのが辨三であった。
 同時代の福沢諭吉は次のように言っている。 「貧乏世界に富者の身を処すること易からざるを知らば、馬鹿者の世界に独り智能を耀かさんとして人に厭わるるは、 亦是れ一種の馬鹿者たるを発明するに足るべし」。

 自身のポジショニングにブレのなかった人生は、大正14年(1925)1月12日75歳で閉じた。 従五位勲四等。 法名 瑞光院殿積徳弘善大居士 神戸電鉄新開地から4っ目の鵯越駅から歩くこと40分、鵯越墓園つばき地区左手奥にねむる。 このつばき地区入口には同時代のオーストラリア羊毛貿易のパイオニア・兼松房治郎の墓所がある。

参考文献
 『明治大正日本のマッチラベル』 三好一 著
 『神戸新聞』


黒田 康敬
2009年07月11日
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